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製造業の営業マンが知っておきたい会計① B/Sの基本

はじめに
今回のコラムでは、製造業の営業マンとして最低限知っておきたい「会計」の知識について考えてみたいと思います。
「会計は経理や財務の仕事だから、営業には関係ない」と思われる方もいるかもしれません。筆者自身も営業職になった当初は、売上には関心があっても、B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)を意識して仕事をしていたわけではありませんでした。そもそも新卒の頃は、B/SやP/Lという言葉すら知りませんでした。「何ですか、それ?」というレベルです。
しかし、仕事を続ける中で数字を見る機会も増え、顧客の決算や自社の利益について考えることも多くなり、最低限の会計知識は営業にも必要だと感じるようになりました。
営業にとってP/L(損益計算書)は、売上や利益に直結するため比較的馴染みがあります。一方、B/S(貸借対照表)については、「何だそれは?難しそうだ」という印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
しかし、細かな会計処理まで把握する必要はありません。「こういう構成になっていて、こういう項目が載っている」という基本的な内容であれば、それほど難しいものではありません。
特に製造業では、売上だけではなく、原材料費や製造原価、設備投資、在庫など、日々の営業活動と会計の数字が密接につながっています。また、取引先の決算内容を大まかに理解できれば、その企業が今どのような状況にあるのかを考える材料にもなります。
さて、会計には大きく分けて、株主や金融機関など社外の利害関係者に企業の財政状態や経営成績を報告するための「財務会計」と、社内の経営判断や業績管理などに活用する「管理会計」があります。
企業の財務状況を把握する「財務会計」の代表的な資料として、
- 貸借対照表(B/S:Balance Sheet)
- 損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)
- キャッシュ・フロー計算書(C/F:Cash Flow Statement)
があります。これらは一般に「財務三表」と呼ばれています。キャッシュ・フロー計算書は、企業のお金の流れを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つに分けて表したものです。
こちらも非常に重要なのですが、今回は営業マンにとって特に基本となるB/SとP/Lについて、製造業の営業マンという視点から見ていきたいと思います。営業マンが会計士のように細かな会計処理まで理解する必要はありません。まずは「何を表しているのか」を大まかに理解するところから始めれば十分だと思います。
なお、上場企業の場合は、決算短信や有価証券報告書などを通じて財務情報を確認することができます。一方、非上場企業の場合は、上場企業のように詳細な財務情報を容易に入手できるとは限りません。この点は留意が必要です。
1回のコラムで全てを網羅するのは難しいため、まず第1回としてB/S(貸借対照表)、第2回ではP/L(損益計算書)、そして第3回では管理会計、特に製造業にとって重要な考え方となる減価償却費に焦点を当て、シリーズでお届けしたいと思います。
B/Sを見ると「会社の財政状態」が分かる
B/Sは、ある時点において企業が「どのような資産を持っているのか」、そして「その資産をどのように調達した資金で賄っているのか」を表したものです。
大きく見ると、左側の「資産」と、右側の「負債・純資産」に分かれます。
左側の資産は、企業が調達した資金がどのような形になっているのかを表しています。
資産は大きく「流動資産」と「固定資産」に分かれます。
流動資産には、現金・預金、売掛金、製品・商品(在庫)、原材料などがあります。
一方、固定資産には、土地、建物、機械設備などの「有形固定資産」、ソフトウェアや特許権などの「無形固定資産」、投資有価証券などの「投資その他の資産」があります。このくらいの内容であれば、何となくイメージできるのではないでしょうか。
特に製造業の場合は、工場や機械設備、原材料、仕掛品、製品在庫などが大きくなることも多く、B/Sにもその企業の「ものづくりの特徴」が表れます。当然、製造業ではこうした資産の比率が大きくなる傾向があります。これに対して、工場を持たないファブレス企業(こちらの記事もご参照ください)やサービス業などでは、このあたりの資産の比率が比較的小さくなることが想像できます。
次に、右側の「負債・純資産」は、左側にある資産をどのような資金で賄っているのかを表します。
負債には、仕入先に対する買掛金や金融機関からの借入金などがあります。これらは将来的に返済や支払いが必要となるものです。負債は、比較的短期間に支払いが必要となる「流動負債」と、それより長期の「固定負債」に分かれます。
細かな科目まで覚える必要はありませんが、この違いは後述する「流動比率」を理解する上でも知っておくとよいと思います。
純資産には、株主から払い込まれた資本金や、企業がこれまで事業活動によって蓄積してきた利益剰余金などがあります。
そして、 資産 = 負債 + 純資産 という関係が必ず成立します。
左右の金額が一致し、バランスすることから「Balance Sheet(バランスシート)」と呼ばれています。
また、B/Sは「ある一時点」の財政状態を表します。例えば「2026年3月31日時点で、現金・借金・純資産がいくらあるのか」というものです。このため、B/Sは「ストック」を表すともいわれます。
つまりB/Sを見ることで、その企業が「どのように資金を調達し、それを何に使っているのか」を大まかに把握することができます。それぞれの企業のお金の使い方や特徴が、このB/Sには表れます。
製造業の営業マンが知っておきたいB/Sの2つの指標
B/Sの各項目を使うことで、企業の財務状況をさまざまな角度から分析できます。
その中でも、営業マンとして最低限知っておきたいものとして、今回は「自己資本比率」と「流動比率」の2つを挙げたいと思います。
自己資本比率
自己資本比率は、総資産のうち自己資本がどの程度を占めているのかを見る指標です。
概念的には、 自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産 × 100 で計算します。
一般的には、この比率が高いほど借入金などへの依存度が低く、財務的な安定性が高いと考えることができます。一つの目安として、製造業では自己資本比率40%程度以上があると、比較的財務基盤が安定していると見る考え方があります。この「40%」という数字は、大まかな目安として覚えておいてもよいと思います。
ただし、「40%以上なら絶対に安全」というものではありません。業種や企業の成長段階、事業モデルなどによって適正な水準は異なります。
また、自己資本比率は高ければ高いほど経営上優れている、と単純に判断できるものでもありません。
特に上場企業では、保有する資本をどれだけ効率的に利益につなげているかという「ROE(自己資本利益率)」も重視されます。十分な自己資本を持ちながら、それを成長投資などに活用できていなければ、資本効率という別の観点から評価されることになります。なお、ROEについては、それだけでも大きなテーマとなるため、本稿では割愛します。
一方、非上場の中小企業との取引を考える場合には、自己資本比率が高いことは、財務的な安全性を見る上でプラスの材料の一つになると思います。
流動比率
もう一つが「流動比率」です。
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 で計算します。
流動資産は現金・預金、売掛金、棚卸資産など、原則として1年以内に現金化される、または通常の営業活動の中で循環する資産です。一方、流動負債は買掛金や短期借入金など、原則として1年以内に支払い・返済が必要となる負債です。
したがって、流動比率を見ることで、企業の短期的な支払能力を大まかに把握することができます。
一般的には100%を上回っていれば、流動負債を流動資産でカバーできていることになります。そのため、「100%」という数字が一つの目安になります。
ただし、こちらも業種によって適正な水準は異なります。また、流動資産の中には在庫など、必ずしもすぐに現金化できるとは限らないものも含まれています。
したがって、「100%を超えているから必ず安全」と単純に判断するのではなく、同業他社や過去からの推移と比較して見ることが大切です。
こうした基本的な指標を知っておくだけでも、自社はもちろん、取引先がどのような財務的特徴を持つ企業なのかを見る一つの手掛かりになります。
また、「無借金経営」という言葉を聞くこともあると思います。文字どおり考えれば、金融機関からの借入金がない状態です。一方、借入金そのものは存在していても、それを上回る現預金などを保有しており、実質的にはいつでも返済できるような財務状態を「実質無借金」と表現することもあります。
単純に「借入金があるか、ないか」だけを見るのではなく、それに対してどの程度の現預金や資産を持っているのかを見ることも大切です。
B/Sからその企業の特徴を考えてみる
以上、B/Sについて基本的な内容を中心に考察してきました。
製造業の営業マンとしては、まずこのくらいの基本を知っておけば十分ではないかと筆者は考えています。
大切なのは、B/Sの細かな数字を分析できるようになることではなく、数字からその企業の特徴を大まかに捉え、そこから想像してみることだと思います。
例えば、設備投資に積極的な企業なのか、借入金を活用して成長投資を進めているのか。在庫をできるだけ抑える経営なのか、あるいは安定供給などを重視して一定の在庫を持つ方針なのか。同じ製造業でも、B/Sには企業ごとのさまざまな特徴が表れます。
また、売上規模に対して売掛金が比較的大きければ、「回収までの期間が長いのだろうか」と考えることもできます。反対に売掛金が少なければ、「回収が早いのか、現金取引が多い事業なのだろうか」と想像することもできます。
買掛金についても同様です。仕入規模との関係を見ながら、「支払サイトが比較的長いのだろうか」といったことを考えることができます。
もちろん、B/Sだけを見てその理由まで断定することはできません。売掛金や買掛金の金額は、売上や仕入の規模、決算のタイミングなどによっても変わります。
しかし、こうした視点を持って数字を見ることで、「なぜこの数字になっているのだろう?」と、その企業について考えるきっかけになります。そして、その積み重ねがお客様との会話や提案を考える際のヒントになることもあると思います。
会計を知ることは、単に数字を読めるようになるためだけではなく、お客様の会社や事業をより深く理解するための一つの手段でもあります。
次回の会計シリーズでは、営業マンにとってより身近な損益計算書(P/L)について見ていきたいと思います。


